とある弁護士の読書ブログ

マイペースに書籍の紹介、感想などなどを綴っていきます

【書評】読書は格闘技

 最近は,仕事が忙しかったり,会計の勉強やらしていたため,全く更新していませんでした(笑)


 久しぶりの更新ですが,本日は,読書は格闘技 (集英社文庫) 著 瀧本哲史についてご紹介いたします。


 この本は,読書に際して,『自分の頭で考え,著者と格闘するつもりで本を読む』ということの重要性を語り,さらに,幾つかのテーマに関して(例えば,マーケティングや正義論等)の相反する名著を2冊挙げて,それぞれの特徴を概観しつつ,著者と格闘するということを実践していくというものです。
 命題の重要性を説くにとどまらず,実際にやってみせるというところは,いかにも実務者らしいと感じました。
 また,この本の中で,当該テーマに対する2冊の代表図書のみならず,参考図書も挙げており,しかもその参考図書についても,決して読むように推奨されるべき本ではないということも説明しています。
 本の厚さは,186頁程度の薄いものですが,決して内容が薄いというわけではなく,著者の知識量の豊富さを感じ取ることや,単に読み流してしまいそうな本の記述についても,その背景事情を他の知識と紐づけて著者なりに解釈・分析しており,鋭い考察が非常に勉強になります。また紹介する本がいずれも名著であるということもあるのか,この点は古いとして手放しでほめることはしませんが,著者なりにその本から現代においてどのようなことを学べるかということを記述しています。


 大学に入学した際に,学問は『物事を疑うことがスタートラインである』といった話を,教授や,弁護士等の実務家教員がよく口にしていたのを耳にしていましたが,本書も疑ってかかることの重要性を説いています。
 学問をやっている方にとってや,会社においても新しい企画等を考える立場にある方等にとっては,この物事を疑って掛かるという姿勢は,『言われなくても当たり前』に備わっている能力であるように思えますが,そういった方であっても,本書は,改めて,『疑う』という概念を再定義してくれるものだと思いますので,一読されることをお勧めします(なお,著者は,お勧めされる本でさえ,お勧めしてきた人と,お勧めされた人とが別の人間である以上,必ずしもその本が良書とは限らないということを書いてあるため,このお勧めについても『疑う』ことが良いのかもしれませんが。)。

弁護士の日常について~民事訴訟~

 さて,本日は,書評をお休みして弁護士の日常についてツラツラと書いてみたいと思います。


 弁護士というと,やはり裁判所に行って,弁論を繰り広げているイメージがそこそこあるのではないかと思います。
 もちろんそういった面もありますが,意外とやっていることは地味です(笑)


 まず,仕事の比率ですが,基本的に訴訟の仕事は圧倒的に民事事件が多いです。
 そして,民事事件においては何をやっているかというと,主張書面(法曹界では,これを『準備書面』と言ったりします。)を起案し,裁判期日当日は,「陳述します」というと,主張書面に書いた内容が法廷等で述べられたことになるのです。


 そのため,裁判傍聴に行かれたとしても,やり取りとしては下記の通りになります。例は第一回弁論期日とします。


裁判官「原告,訴状を陳述ということでよろしいですね。」
原 告「はい。陳述します。」
裁判官「次に,被告,答弁書を陳述ということでよろしいですね。」
被 告「はい。陳述します。」
裁判官「では次回期日は…」
 という感じで終わります(笑)細部は端折りましたが,大体こんな感じです。
 そのため,1回の期日が1分とかで終わるなんてこともザラにあります。
 また,同一の時間に5個くらい期日が入っていることもザラにあります。
 なので,傍聴席は,陳述にやってきた弁護士等の代理人でいっぱいになっているのです(笑)
 はたから見れば,なかなかシュールな光景ではないかと思いますね。



 さて,肝心の書面ですが,これは割と書く(弁護士は書面を書くことを「起案する」という言い方をしますので,以後,「起案」という言葉を使います。)のに時間が掛かります。


 大まかに訴訟で問題になる論点は,①法律解釈の問題,②事実認定の問題,③事実に対する評価の問題の3つに分かれます。
 そのため,やるべきこととしては,①との関係では,法律に関するリサーチ(司法試験で使うような教科書的なものからスタートして,判例のピックアップ・読み込み,場合によっては研究者の先生が書かれた論文を読むこともあります)をします。
 次に,②については,依頼者から頂戴している資料を整理して,時系列表などを作って事実関係を精査します。また,場合によっては依頼者のみならず関係者からも話を聞くなどします。
 最後に③は,その事実特有の知見(高度な科学的な知見が必要になることもあります)についてのリサーチ及び依頼者からご教示いただくといったことをします。


 これが前さばきの段階です。


 適用される法律関係や事実関係及び特有の知見を頭に入れたら,次にやることは実際にこれらを前提にどのような主張・反論ができるかを検討します。
 その際には,相手方の反論や,裁判所がどのような判決をするかについてまで予想します(これは事件が進むごとに適宜修正していきますが)。


 そして,最後に仕上げとして,起案をしていくのです。


 こういった流れを経て作成された書面ですが,これで完成ではありません。


 この書面を(共同で事件にあたっている場合には)他の弁護士にも見てもらい,場合によっては修正をしてもらったり,議論したりして,何度か修正案を作成します。


 そして,弁護士間協議を経てから,依頼者に最終確認に回します。
 依頼者からのゴーサインがいただけた場合に,初めて裁判所に提出するという運びになるわけです。
 訴訟事件においては,この主張書面を何度も提出しあうことになります(訴状→答弁書→原告第一準備書面→被告第一準備書面→原告第二準備書面→被告第二準備書面…)。


 凄い大雑把なことを言うと,オーダーメイドの服屋さんみたいにモノづくりのイメージに個人的には近いのではないかと思います。

 
 時間に制約があり,常に納期との関係でビクビクはしていますが,上記のプロセスを経て,提出した書面の主張を,裁判官から「そのとおりですね」等と言われた日には,ウキウキで事務所に帰ることになります(笑)そして意気揚々と依頼者に報告するわけですが(笑)


 とまあ,弁護士は基本的にこういった書面を起案することに日常から追われているのではないかと思います。


 ではまた。

【書評】バレット博士の脳科学教室 7 1/2章

 さて,本日は,「バレット博士の脳科学教室 7 1/2章」リサ・フェルドマン・バレット (著), 高橋洋 (翻訳)をご紹介します。


 本書は脳科学についての入門的な位置づけでありつつ,最先端の脳科学に関する知見を,きわめて平易な言葉で解説してくれている本です。
 我々が都市伝説的に信じ込んでいる脳科学,人間の脳は3つに分けることができ,爬虫類脳は「生存を司る脳」(27頁),大脳辺縁系は「感情を司る脳」(同頁),大脳皮質は「思考を司る脳」(同頁)と分かれているといった考えを真っ向から否定し,改めて今日の脳科学における脳のとらえ方,脳科学から見た子育ての方法,脳科学に基づくと,我々の行動はいかに決定されるのか,我々が行動を変えるためにはどのようにすればよいのか,現代社会の制度と脳の関係等,極めて興味深くかつ身近な例を使って解説をしてくれるものです。
 最新の脳科学に関する知見を手に入れた上で,さらに,自身の行動を見つめなおすきっかけになる本ではないかと思います。
 語り口も予備知識ゼロの素人でも読んで書いてある内容を理解することができるといった記述になっているので,脳科学に興味を持たれた方は一読されるのが良いのではないかと思います。
 私としては再読の価値がある本(基本的に再読の価値がある本しか紹介してないのですが(笑))だと思います。


 ちなみに,この本を読んで,本格的に脳科学を学びたいという方は,情動はこうしてつくられる――脳の隠れた働きと構成主義的情動理論 リサ・フェルドマン・バレット (著), 高橋洋 (翻訳)もお勧めされています。


 ではまた。