とある弁護士の読書ブログ

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【書評】人新世の「資本論」 (集英社新書)

 さて,本日は,人新世の「資本論」 (集英社新書) 斎藤 幸平 (著)をご紹介いたします。


 この本は,資本主義の無限の経済拡大を目指すという性質と,地球資源は有限であることの矛盾点を指摘し,そのため,現在世界中で起こっている地球そのものからの資源の略奪,労働力の略奪が起こっており,日本のような先進国においても100年に1度の大型台風が発生し人命を奪っているという問題に直面していることを問題提起しています。そして,これに対する解決策として,従来のマルクスの資本論の解釈とは異なるマルクスの考えを分析し,これに基づいて資本主義に代わる新たな制度の構築をしていかなければならないと主張をしています。(この筆者の唱える新たな制度については,ぜひとも本書をご覧いただければと思います)
 
 新聞等では,毎日のようにSDGs,ESG投資,EV車,再生可能エネルギー,カーボンニュートラル等といった環境・持続可能性に関するワードのニュースが取り上げられており,さらには,令和2年10月26日には,第203回臨時国会所信表明演説において,菅総理大臣が,2050年前に温室効果ガスを実質ゼロにする社会を目指すと宣言したことも記憶に新しいと思います。
 このように,環境問題は,近年急速に注目されてきている問題となっています。
 そして,現在は,特に温室効果ガスの削減のため,海外,国,自治体,企業,大学において環境に優しい素材の開発,ゼロカーボンに向けた開発等を進めており,我々にとっても,この問題には親しみがあるのではないでしょうか。


 しかし,著者は,ここまでの企業の動き等についても,資本主義においては,あくまでも環境問題は1つの「ビジネスチャンス」にすぎず,本当に実効性のあるものであるか種々のエビデンスを使って疑問を呈し,そもそも資本主義の構造そのものに対して懐疑的な主張をしているのです。


 私も含めて,我々は,資本主義制度を前提として教育され,労働をしてきました。そのような我々にとって,この筆者の主張というのは,今までの常識を破壊されるような主張であり,非常に大きなパラダイムシフトを起こしてくれるものではないでしょうか。


 もっとも,私としては,筆者の主張がある程度正しいと考えつつも,やはり現実として,筆者がいうような世界が実現をするかは疑問が残ります。大きく制度を変更するためには,既存の法律や常識それらを取っ払っていく必要があり,そこには膨大なエネルギーを使っていく必要があります。しかし,私もそうですが,毎日生きることに精一杯な人々がほとんどである中,果たして,そこにエネルギーを使うことはできるのでしょうか。
 また,GAFAのような企業の持つプラットフォームを公共財とすべきという主張についても,難しいのではないかと思っています。プラットフォームをGAFAが手放すとは思えませんし,他方で,手放すことを強制するとしても,そこまで企業が投資したコストは企業のリスクとして負担しなければならないのでしょうか。
 
 まだまだ読み込みが甘く,もしかしたら筆者の主張を曲解している部分があるかもしれません。


 そのように言ったとしても,筆者の分析そのものは非常に勉強になりますし,今後新聞やニュースを見る際の一つの観点とはなりうるものと思いますので,資本主義という制度の下に生きており,今現在環境問題に直面している我々が今後どのように行動していくべきか,その一つの考え方になるものですので,必読の一冊だと思います。